ケビンコスナー主演で、タイトル名も聞き覚えがあったんだけど、まだ観た事がなかった本作。正直舐めてました……まさかこんな感動作だったとは。
もっと若い頃に観ていても良かったんだじゃないかな…
いや、これは中年になって両親のありがたみをしっかり分かってるからこそ感動できるのでは…
どちらにせよ、おすすめできる良作です。
あらすじ
脱サラして田舎で農業を始めた主人公一家。やっと収穫日の近づいてきたある日、トウモロコシ畑で「それを作れば彼が来る」という謎の声を聴く。
「それ」とは何なのか。「彼」とは誰なのか。
疑問だらけの状態から、彼は家族や人々の協力を得ながら、少しずつ夢に向かって進みはじめる。
登場人物紹介
主人公……脱サラして農業始めたおじさん。野球好き。
妻……はっきりした性格。主人公の事を応援する。
娘……野球好きの血を引く、幼い娘。
父……主人公に野球を教えた。親子仲が悪くなり主人公は家を飛び出す。
シューレス・ジョー……父が好きだった野球選手。球界を追放された。
ネタバレありの感想
【畑に野球場を】
アイオワ州の田舎で、トウモロコシ畑を始めた初心者農家の主人公。ある日、「それを作れば彼が来る」という謎の声を聴き、野球場を作る事を決意します。
彼の頭には、過去に球界を追放された「シューレス・ジョー」の姿が。
父が好きだった悲劇のヒーロー「シューレス・ジョー」。野球場を作れば、ジョーが帰ってきてくれるんじゃないか。そんな無茶な夢を抱いて、トウモロコシ畑をつぶし、フィールドや照明を揃えていきます。
妻と娘はそんな夫を温かく見守っていて。
ここが所謂普通のハリウッド映画とは違うところ。普通はいかにもダメ夫という感じで、早々に家族に相手にされなくなりそうですが、この作品はきちんと父親・夫としての尊厳を保っています。
この映画は原作が「シューレス・ジョー」という題名で、この野球選手が重要な人物となっています。野球好きならご存知かもしれませんが、実はこの人は実在の人物。
彼を含め、八百長疑惑で追放された8人を惜しむ人は未だに多いそうです。その辺も知っていて観ると、なかなか面白い。
【シューレス・ジョーとの邂逅】
町の人に変人あつかいされながらも、野球場をなんとか形にしていった主人公。
ある日彼と家族は、野球場に見知らぬ男が立っているのに気付きます。
古めかしい野球のユニフォームを着た男性。それはまさしくあの「シューレス・ジョー」本人。
また野球ができる事を喜ぶジョーは、次の日からは、球界を追放された他のメンバーも連れてくるように。
背の高いトウモロコシ畑から次々と現れ、満足げにその中へと帰ってゆく野球選手たち。
実にファンタジー溢れる演出ですし、ちょっと不気味さもあります。でもここでいちいち説明を挟まず、フワッとした感じを貫いているのがこの映画の良い所。
「野球場の見せてくれた夢」という感じがすごくして素敵です。
【立ちはだかる困難と、新たなお告げ】
主人公一家にはハッキリと見える選手たちも、妻の家族たち(義母、義兄など)にはまったく見えません。
トウモロコシ畑の大半を失い、維持費がかかる野球場を抱えた一家を心配し、説得を繰り返します。
もちろん家計は赤字。このままではせっかくの野球場を手放すしかなくなります。
そんな中、また新たな「声」を聴く主人公。
「彼の苦痛を癒せ」という謎の言葉ですが、これは夫婦で出席した町のPTA集会で謎が解けます。
過去に思想的な本を多数書き若者に人気のあった作家「テレンス・マン」の本が槍玉に挙げられています。
保守的な田舎の女性と対立し、本を弁護する妻の姿を見ながら、主人公は絶筆状態にあるこの作家を救うことを考えます。
実はこの作家は野球ファンだったり、過去の作品に主人公の父親と同姓同名の珍しい名前が出てきたりと、因果を感じる方なんですね。
渋る妻をなんとか説得し、作家の消息を追う主人公。当初に比べ、この一連の出来事に対する情熱がどんどん高まっているのがよく分かります。
【旅の仲間】
執筆をやめ、社会との関わりを避けているテレンスに会い、一緒に野球場で試合を見て欲しいとお願いする主人公。
あまりの剣幕に、ストーカー扱いされ追い返されそうになりますが、半ば脅すように共に野球場へ……。
その試合のさなか、また新たな「お告げ」が。
振り回してしまったことをテレンスに詫びて別れようとした主人公ですが、実はテレンスもそのお告げを聴いていました。
ここからは、主人公の旅に彼が加わります。
試合中に二人は電光掲示板で不思議なものを見ました。その試合には出ていない昔の選手「ムーンライト・グラハム」の名前があったのです。
野球界ではほとんど活躍しなかった彼の消息を追うと、地元で医者として地域の人に愛され、亡くなっていました。
主人公はその日、夜道で不思議な経験をします。亡くなったはずのグラハムその人が道を歩いており、話をしたのです。
彼に再び野球をしてもらうことが出来ないまま、主人公は妻から電話を受けてアイオワに戻る事に。
経営難に見切りをつけた義兄が、野球場を手放すように仕向けていたのです。
そして主人公とテレンスが車をアイオワに向かって走らせている途中、もう一つの出会いがあります。
若い野球選手で、名前はなんとグラハム。そう、若い頃のグラハムが旅に加わったのです。
お告げに振り回されながらも、テレンスという理解者、新たなグラハム青年という野球選手と連れてアイオワに戻ることができた主人公。
この辺は、主人公と同じようにお告げの謎を知りたくなり、新しい事実が加わる度にドキドキする展開です。
【困難との対峙、そして別れ】
アイオワに戻るとジョーたちが楽しそうに野球をしていたので、早速試合に混じるグラハム。そして初めて見る光景にビックリするテレンス。
主人公と家族は彼らの試合を見ることができますが、義兄は違います。
ここは義兄にとっては空っぽで、何の利益も生み出さない野球場です。
主人公たちにまるで揶揄われているかのように感じ、ますますキツい言葉でけなします。
そんなとき「皆がここに来るからお金の心配はなくなる」と主人公の娘が言い出し、テレンスもそれを肯定。
沢山の人……夢を失って疲れた人たちがここに不思議と引き寄せられ、この野球場で過ごすだろうというのです。
もちろんそんな事は信じない義兄との口論はヒートアップ。そしてその最中に誤って娘がベンチから落ち、怪我をして意識を失ってしまい……。
この時、グラハムがここに呼ばれた本当の理由が分かります。
この野球場は特別な場所。亡くなった人間がここから出たら、二度とその夢の世界には戻れないでしょう。
決意したグラハムがフィールドから一歩出た瞬間、晩年の老いたグラハムへと姿が変化。
彼が診察すると、娘の怪我は大したことが無く、意識も無事に戻りました。
もう野球はできないグラハムですが、主人公一家や他の野球選手たちに見守られながら、静かにトウモロコシ畑へと姿を消します。
このできごとで野球場の真の姿に気付かされた義兄は、前言を撤回。この素晴らしい場所を守る事が出来ました。
今日はお終いと、トウモロコシ畑へと戻っていく野球選手たち。その中のシューレス・ジョーが、テレンスに声を掛けます。
「一緒にくるか?」と。
なぜテレンスなのか。なぜ自分は招かれないのかと納得できない主人公。
ですがテレンスはトウモロコシ畑の向こう側を経験したら、その経験を言葉にすることができます。
主人公はそのまま、きっといい本が書けると確信するテレンスを見送ります。
せっかくチームに加わったグラハムとの別れ、そしてテレンスの旅立ち。グラハムはおそらく死後の世界に行ったのであろうと思いますが、テレンスはどうでしょうか。
きちんとは描かれていませんが、おそらく言葉通り、人々にトウモロコシ畑の向こう側について広めるための人物なのだったと思います。
ですから今はお別れですが、いつかは戻ってくることでしょう。
【本当の「彼」との再会】
トウモロコシ畑の向こう側には行けなかった主人公ですが、それにはもう一つ理由があります。
なぜなら主人公は、トウモロコシ畑からやってくるもう一人の「彼」を迎えるべき人物だったからです。
その彼が姿を現した時、やっとこのお告げの意味が理解できるでしょう。
お告げが最初から言っていた「彼」は主人公の「父親」だったのです。
若いころの姿のままトウモロコシ畑から出てきた父と対面する主人公。
小さい頃に、共に野球を楽しんだ父。
成長して関係が悪化し、ひどい言葉を言って家を飛び出た事を主人公はずっと後悔していました。
そのまま亡くなって、もう二度と会えないと思っていた父親と、ゆっくりキャッチボールを始める主人公。
日が暮れて、優しい時間の流れる野球場からカメラが引いていき……田舎町へと向かってくる車のランプがいくつも見えて……
とても余韻の残るエンディングで、正直涙が止まりませんでした。
実は最初から最後まで「家族」という大きなテーマで描かれた作品だったと気付きます。
まとめ
管理人の評価:★★★★★(星五つ)
成人し、親の年に近づくにつれ、両親が何を思いながら自分を育ててくれたのかがよく分かるようになります。
同居しているうちに、もっと孝行しておけばよかった。なんて思うこともしばしば。
そんな自分に、この映画はとても胸に刺さりました。
「親を大事にする」
こういう考えが希薄になってきた現代日本の人にこそ観て欲しい作品です。
「お告げ」という宗教めいた感じが、日本ではちょっと受け入れにくいかもしれませんが、
あまりキリスト教的なニュアンスもありません。「主人公の内なる声」と解釈している人もいるようですし。
トウモロコシ畑のこちら側と向こう側、というのも若干不気味さがあり、最初はビクビクしてしましましたが、
多分あれは三途の川をマイルドに表現した感じですね。
一生忘れない、また何度でも見るだろう「心の名作映画」リストに仲間入りです。
ここ数年は顔ぶれの変わらなかったリストですが、新入りが増えて嬉しい限り。